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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「さ、ようお考え遊ばしませ。お兄上様のこの度のことから、世間は何と考えましょうぞ。重蔵様程のご舎弟ゆえ、今にきっと兄上に代って天晴れなお腕前になるであろう。兄に代って鐘巻自斎を打ち込むであろう――そして福知山方の誉れを取り返す者は、新九郎様でなくてはならぬと思うが真でござりまする。それを微塵もお心にないは、余りと申せば腑甲斐ない、武士に珍らしい腰抜けじゃと、父さえ蔭で申しまする……それを聞く私の切なさ……く、く、口惜しさ……」

と嗚咽に交じった千浪の言葉は、女らしいうちにも抉るような鋭さがあった。

「そのお心の醒めるよう、誠の武士の魂が甦りますようと――この男山八幡へ、父上の眼を偸んで、夜な夜な祈願をこめるのも、飽くまで誓った良人と思えばこそでござります。新九郎様、これでお疑いは晴れる筈でござります」

「ああ拙者は恥かしい男のう……」

「そこへお気がつきましたら、どうぞ重蔵様にも勝る剣士、鐘巻自斎にも優れた名人におなり遊ばして下されまし」

「……が、我ながら、どう気を取直しても、生れつきの臆病と見えて、剣の音を聞くだに身が縮む。何でそのような大望が果されよう……」