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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
「しかし、どこか夜露を防ぐところだけは目つけたいものでござるな」
と二人の声が間近になるまで、充分ためていた洞門の権右衛門はそれへ跳り出して、
「やい、用があるからしばらく待て」
と立塞がった。
「何じゃ、何者じゃ、そのほうは?」
「何者でもねえ、この斑鳩嶽に、その人ありと知られた雨龍の一族、洞門の権右衛門だ。よくも最前は埴生の里で一門の者を手にかけたな」
「おお、良家の娘を誘拐そうとする理不尽な奴、それを、斬り捨てたが何と致した」
と戸川志摩は怯む色もなく云い返した。権右衛門は青筋立てて、
「おのれ云わしておけば好きな囈言、さあ、俺等の一族に指でも指した奴は、嬲り殺しにするのが雨龍一族の掟だ。引ッからめて頭領のところへ吊して行くから観念しろよ」
「だまれッ、罪を裁くは、領主の司権じゃ。汝等如き鼠賊が掟呼ばわりは片腹いたい」
「斑鳩嶽一帯は雨龍の領土も同然、この山中に踏み込んで要なき繰り言だ。それッ」
と、洞門が片手を挙げて合図をすると、潜んでいた数十名の手下が、ばらばらと二人の前後を取り囲んだ。
「新九郎殿ッ、ぬかり給うな」
志摩は叫んで、仕込みの一刀、真一文字に振りかざしてどッとその中へ斬り込んだ。