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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「客人、唯今これへ二人の亡者を召し出して白洲を開くから慰みにご覧なさるがよい」

「ほう、亡者と申すと何者のことでござろうな」

と浪人はちょっと解しかねた顔を見せた。――肩幅の広い見るからに一曲ありげな人物である。

「おわかりないのは道理じゃ。里で申す罪人を――山では亡者と呼んでおります。ひとたび雨龍の面前に引き据えた者は、生きて帰さぬ掟からそう呼ぶのでござる」

「成程、ではこの場で首を刎ねられるのか」

「いや、いつもは洞窟へぶち込んで手下の好きにさせるのだが、幸い客人は一刀流の使い手、世が世の時には指南番までしたという腕前を見たい。――この場で腕試しに二人の胴なり首なり斬ってお見せ下さらぬか」

「ははははそりゃいと易いこと、拙者が腕前をお見せする為ならば、縄目にかけた死骸同様な奴を斬るは本意でござらぬ。一人一人に得物を持たせて、尋常の太刀打ちの上、見事真っ二つにしてご覧に入れよう」

「さすがは一流の剣客者たるお心がけ、そりゃいっそ見物でござろう。あっぱれお手のうちを見届けた上は客人の望み通り、一族の師範としてこの山荘に生涯おいでなさろうともお心次第と致すことに約束致そう」