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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
「おいしいかい。君はいい子だね。だが、そのチョコレートはそんなに上等のではないのだよ。この金色の罐に入った奴は、それの十倍も美しくって、おいしいのだよ。ホラこの罐の綺麗なことを御覧。まるでお陽様みたいに、キラキラ輝いているじゃないか。今度は君にこれを上げるよ。だが、君が本当のことを云わなければ駄目だ。私の尋ねることに本当のことを云わなければ、上げることは出来ない。分ったかい」
諸戸は丁度催眠術者が暗示を与える時の様に、一語一語力を入れながら、子供に言い聞かせた。友之助は、驚く程の早さで、次から次と銀紙をはがしては、チョコレートを口に運ぶのが忙しくて、諸戸の膝から逃げようともせず、夢中で肯いている。
「この花瓶はいつかの晩、巣鴨の古道具屋にあったのと、形も模様も同じでしょう。君は忘れはしないね。その晩にこの中へ隠れていて、真夜中時分、そっとそこから抜け出し、縁の下を通ってお隣の家へ行ったことを。そこで君は何をしたんだっけな。よく寝ている人の胸の所へ、短刀を突きさしたんだね。ホラ、忘れたかい。その人の枕下に、やっぱり美しい罐入りのチョコレートがあったじゃないか。