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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

彼女はそんなことを云った。

「これつまらない反古の様ですけれど、でも、いつか随分高い値をつけて買いに来た人があるのよ。近所の古本屋さんですの。お母さんがふと口をすべらせたのを、どっからか聞き込んで来たのでしょう。でも、どんなにお金になっても、こればかりは譲れませんって、お断りしましたの。ですから、まん更値打のないものでもありませんわねえ」

彼女は又、そんな子供らしい事も云った。

謂わば、それがお互の婚約の贈物であったのだ。

だが、間もなく、私達に取って少々面倒な事件が起った。それは、地位にしろ、財産にしろ、学殖にしろ、私とは段違いの求婚者が、突然初代の前に現れたことであった。彼は、有力な仲人を介し、初代の母親に対して、猛烈な求婚運動を始めたのである。

初代がそれを母親から聞き知ったのは、私達が例の贈物を取交わした、丁度翌日であったが、実はと云って母親が打開けた所によると、親戚関係をたどって、求婚の仲介者が母親の所へ来始めたのは、已に一ヶ月も以前からのことだというのであった。私はこれを聞いて、云うまでもなく驚いた。だが、私の驚いたのは、求婚者が私よりは数段立勝った人物であったことよりも、又、初代の母親の心がどうやらその人物の方へ傾いているらしいことよりも、初代に対する求婚者というのが、私と妙な関係を持って