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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

いる、彼の諸戸道雄その人であったことである。この驚きが、他の諸々の驚きや、心痛を打消してしまった程も、ひどかったのだ。

何ぜそんなに驚いたかというに、それについては、私は少しばかり恥かしい打開け話をしなければならないのであるが……。

先にも一寸述べた様に、科学者諸戸道雄は、私に対して、実に数年の長い間、ある不可思議な恋情を抱いていた。そして、私はと云うと、無論その様な恋情を理解することは出来なかったけれど、彼の学殖なり、一種天才的な言動なり、又異様な魅力を持つ容貌なりに、決して不快を感じてはいなかった。それ故彼の行為が、ある程度を越えない限りに於ては、彼の好意を、単なる友人としての好意を、受けるに吝でなかったのである。

私は実業学校の四年生であった頃、家の都合もあったのだが、寧ろ大部分は私の幼い好奇心から、同じ東京に家庭を持ちながら、私は神田の初音館という下宿屋に泊っていたことがあって、諸戸とはそこの同宿人として知合ったのが最初であった。年齢は六つも違って、その時私は十七歳、諸戸は二十三歳であったが、彼の方から誘うままに、何しろ彼は大学生で而も秀才として聞えていた程だから、私は寧ろ尊敬に近い気持ちで、喜んで彼とつき合っていた訳である。