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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
私が彼の心持を知ったのは、初対面から二ヶ月ばかりたった頃であったが、それは直接彼からではなく、諸戸の友人達の間の噂話からであった。「諸戸と蓑浦は変だ」と盛んに云いふらす者があったのだ。それ以来注意して見ると、諸戸は私に対する時に限って、その白い頬のあたりに微かな羞恥の表情を示すことに気づいた。私は当時子供であったし、私の学校にも、遊戯に近い感じでは、同じような事柄が行われていたので、諸戸の気持を想像して、独りで顔を赤くするようなこともあった。それはそんなにひどく不快な感じではなかった。
彼がよく私を銭湯に誘ったことを思い出す。そこでは、きっと背中の流しっこをしたものであるが、彼は私の身体を石鹸のあぶくだらけにして、まるで母親が幼児に行水でも使わせる様に、丹念に洗ってくれたものである。最初の間は、私はそれを単なる親切と解していたが、後には彼の気持を意識しながら、それをさせていた。それほどの事は、別段私の自尊心を傷つけなかったからである。
散歩の時に手を引合ったり、肩を組み合う様なこともあった。それも私は意識してやっていた。時とすると、彼の指先が烈しい情熱を以って私の指をしめつけたりするのだけれど、私は無心を装って、併しやや胸をときめかしながら、彼のなすがままに委せた。