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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
僕は蔵の窓からあの人が鬼瓦を割っているのを見たよ。無論何も出やしなかった。併し、そのお蔭で僕は、暗号を解く手がかりが出来たんだけれど」
私はそれを聞くと、何だか自分が笑われている様に感じて、思わず赤面した。
「馬鹿ですね。僕はそこへ気づかなかったのです。すると丁度鳥居の影が石地蔵に一致した時、鬼瓦の影の射す場所を探せばいい訳ですね」
私は、諸戸が私の時計について尋ねたことを思い出しながら云った。
「間違っているかも知れないけれど、僕にはそんな風に思われるね」
私達は長い道をこんな、会話を取交わした他は、多く黙り込んで歩いた。諸戸が非常に不愛相で、私を黙らせてしまったのだ。彼は父親を押籠めた不倫について考えていたに相違ない。父という言葉を使わないで、丈五郎と呼び捨てにしていた彼ではあるが、それが親だと思うと、打沈むのはすこしも無理ではなかった。
私達が目的の海岸へ着いた時は、少し時間が早過ぎて、烏帽子岩の鳥居の影は、まだ切岸の端にあった。
私達は時計の捻子を捲いて、時の移るのを待った。
日蔭を選んで腰を卸していたけれど、珍らしく風のない日でジリジリと背中や胸を汗が流れた。