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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

「そうだそうだ。じゃ、今からすぐそれをやって見ようじゃありませんか」

「無論やって見る外はないが、何も慌てる事はないよ。何里という道を歩かなければならないのだから、充分休んでからにした方がいい」諸戸はそう云いながら、短くなった巻煙草を、威勢よく投げ捨てた。

赤い火が鼠花火の様に、クルクルと廻って二三間向うまで転って行ったかと思うと、ジュッといって消えてしまった。

「オヤ、あんな所に水溜があったかしら」

諸戸が不安らしく云った。それと同時に、私は妙な物音を聞きつけた。ゴボッゴボッという、瓶の口から水の出る時の様な、一種異様の音であった。

「変な音がしますね」

「何だろう」私達はじっと耳をすました。音は益々大きくなって来る。諸戸は急いで蝋燭を点し、それを高く掲げて、前の方をすかして見ていたが、やがて驚いて叫んだ。

「水だ、水だ、この洞穴は、どっかで海に通じているんだ。潮が満ちて来たんだ」

考えて見ると、さっき私達はひどい坂を下って来た。ひょっとすると、ここは水面よりも低くなっているのかも知れない。若し水面より、低いとすると、満潮の為め、海水が侵入すれば、外の海面と平均するまでは、ドシドシ水嵩が増すに相違ない。