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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
彼はこの事件について彼の知り得たことを、殆ど全く私に打開けていなかったので、彼の様な磊落な男を、これ程まで恐怖させた所の、蔭の事実の恐ろしさは、想像だも出来なかったけれど、彼の真から怖がっている様子を見ると、私もついつり込まれて、華やかな海水浴場の、何百という群衆に取囲まれながらも、何だか変な気持ちになって来るのを、どうにも出来なかった。誰かの云った「本当にかしこい人殺しは、淋しい場所よりも、却って大群集の真中を選ぶ」という言葉なぞも思出されるのであった。
私は深山木を保護する気持で、砂丘をおりて、彼の喜戯していた方へ近づいて行った。彼等は鬼ごっこにも飽きたと見えて、今度は、波打際に近い所に大きな穴を掘って、三四人の十歳前後の無邪気な子供等が、深山木をその中に埋め、上からせっせと砂をかけていた。
「サア、もっと砂をかけて、足も手もみんな埋めちまわなくちゃ。コラコラ顔はいけないぞ。顔だけは勘弁してくれ」
深山木はいいおじさんになって、しきりとわめいていた。
「おじさん。そんなに身体を動かしちゃ、ずるいや。じゃ、もっとどっさり砂をかけてやるから」
子供らは両手で砂をかき寄せては、かぶせるのだけれど、深山木の大きな身体は仲々隠れぬ。