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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
ありません。その美しい勇ましい若者は、これもつねに山神さんの愛を恵まれうる資格がそなわっておったはずでございます。そういうような若者が、神の赤子を抱いたとて不自然な話ではありません。どういうふうに考えてみても赤子は神秘なもので、霊味のすぐれたものであります。われわれのうぶな祖先の人たちの神との親密な交通は、とても今日の私たちからは想像だにもできぬものでありましょう。
私はもう一つその類話をいたしましょう。陸中国遠野郷青笹村という所に、近年荒滝と名乗った力士がありました。この人若年のころの厳寒に、積雪を踏んで、六角牛山という高山に参籠し、七日七夜めに、ついに山の女神が乳房を露わして、口に含ませられたと思うと、たちまちに大力を授かったという伝説であります。荒滝が真冬のなかを、素足で裸体で、たった一すじの化粧回しを締めこんで、真夜中、お山の頂上のお社に参りますと、女神は肩肌を脱がれて真っ白い乳房まで露わしてくだされる。そういうときには相撲は勝ちましたが、どうかすると、ただ二の腕までしか出して見せませぬ。そうしたときの勝負にはどうも思うようにいきませんでした。