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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
そのとき炊事男(あるいは時知らせの男とも言います)に、ウソトキ、あるいは、オソトキ(2)と呼ぶ男がおりましたが、親金がなかなか動きそうもないので、おまえも坑中にはいって手伝ってくれといわれて、みんなと同様に手綱に取り付いていましたが、ふいに坑口のほうで、ウソトキ、ウソトキと呼ぶ声がするので、手綱を放して駆け出して坑を出てみるとなんぴともいませぬ。これはおのが空耳かと思って再び坑中にはいっていると、また外で呼び声がする。それから三度めの呼び声があまりに火急で鋭かったのでハッと思って駆け出し、坑口から片足の踵が出るか出ぬ間の瞬間にドンと坑が落ちたのだとも言います。とにかくこうしてこのオソトキ一人のみ助かったのであります。
話はこれで全部でありますが、その一人助かった者が女(3)であったというほうを申しますと、同郡上郷村字左比内の奥の金山で、やっぱりウシの形をした親金に掘り当てまして、坑中に千人の鉱夫どもがはいって、その金のウシを引き出そうとしたがどうしても力がおよびませぬ。そこで炊事女のオトタツという娘も坑のなかに入れられて手伝っていますと、ふいに坑口の外でオトタツ、オトタツという呼び声がするので、これは母親の声かと驚いて、坑外へ駆け出る刹那、坑が落ちて、なかの千人の鉱夫が死んだという話であります。