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とうおういぶん

東奥異聞

佐々木 喜善

「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页

青空文庫

遠野郷いまの上郷村字来内に斯角東蔵という狩人があって、この山を切り開きはじめて峰頂を究めた。この人あるときカラノボウというこの山の中腹に野宿していて、夜食の餅を火にあぶっていると、どこからか巨大白鬚の大入道がやってきて火にあたる。そしてその焼いている餅を一つくれという。斯角もしかたなく一つ取って与えると怪物はさもうまそうに食べ口なめずりなぞしながら引き去る。かくのごときこと連夜であったが、二夜三夜と夜を重ねると斯角もほとんど困りかつ呆れていよいよ最後の夜、餅に似た角石を多く火に並べて焼きかつ傍らに油を入れた樽を置き酒を装うているところに例の怪物がきてその石を食いまた酒だと思って樽入りの油をたらふく飲む。焼け石に油をかけたのだからたまらぬ。たちまち苦悶し出してああと叫び口鼻の穴から火焔を吹き吐いて谷川のなかにまろびこむ。そしてたちまちのうちに大洪水を出して猿ヶ石川を流れ下った。そのときの洪水は白鬚の洪水というのである。この白鬚の巨人も、この山の主(東奥古伝)。

(5)往古この山に白鬚が膝の辺までとどくような長さの小人の老翁が住んでいた。ある日この翁戯れに一個の石を足で蹴り蹴り山谷をおりると、その跡から水が流れ出て、いまの猿ヶ石川ができた。