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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
それを聴いて娘は泣きながら、親々が許してくだされた仲、たとえいまだお目見えもいたさずに亡くなられた人とはいえ、いまだ妹背の縁の尽きましたものとも思いませぬ。いまから亡夫の後生を弔うて世を送りたいと思いますから、どうぞお側においていただきたいといって、この里に止どまり、舅姑に仕えておりましたが、親たちが亡くなられた後は、円福寺の明極禅師というおかたの弟子となり、紅蓮と名乗り専心念仏三昧に日をおくっておりました。
このお寺の境内の観音堂のほとりに、小太郎が子どものじぶんに植えたウメの木が一本ありましたが、紅蓮は朝夕そのウメの木を見てわが夫としのび、なおそのほとりに庵を結んで心月庵と呼んでおりました。そして日夜亡き夫をしのび慕うあまりに、悲しみに堪えかねて「移し植えし花の主ははかなきに軒ばのウメは咲かずともあれ」という歌をよみましたところが、そのウメの木に、その年から花が咲かなくなりました。それを見て紅蓮はなおさら心淋しく悲しくなって、こんどは「咲けかしないまは主と眺むべし軒ばのウメのあらんかぎりは」とよみますと、こんどは以前よりも多く花をつけるようになったということであります。