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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
この話は優しい女の人の心持を、後々の私たちにまでいまも物語ってくれております。そうしてどうせ作り話ではありましょうが、ある樹木が人間の夫になった(そういう心持がかよった)という話になっているので、私たちは、どうしてこんなふしぎな話ができあがったものかと目を見はるばかりでございます。この話のついでにこの類のものを一、二お話しいたしましょう。
羽前の国の国司に陸奥中納言藤原豊光という人がありました。時代は文武天皇の御代と言いますから、いまからざっと千二百年ほどの昔でありましょう。この人の娘に阿古耶といって容色並びないところの才媛がありました。ある秋の宵、この娘が日ごろ手馴れの琴をとり出して弾じておりますと、その音色につれてどこからともなく朗々と、しかも細々しい笛の音が聞こえてまいります。その音色はいかにも嚠喨として人の魂を奪うようなありさまであります。その娘の琴の音色と、その外の笛の音色と、秋の夜更けに幾度通い合わせたかしれません。その笛の主は緑色の狩衣を着た気品のすぐれた若者で、千歳山の麓に住むという名取太郎というものだとのことでした。ついに二人は思い合う仲となったのでございます。