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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
ある夜、男は娘にいうには、自分の生命も明日一日となった。あなたと会うのも今日かぎりであります。ああ名ごり惜しやというかと思うと、それっきり男の姿が掻き消えて、さっと映ったものは障子に怪しいマツの木の影ばかりでありました。娘はただもうあっけにとられて思い悩むばかりでありました。
そのころ、この国は洪水があって、名取川の橋が毀れたので、千歳山の麓にある老松を伐り倒してその橋普請の用材にしようとしていました。何事も知らぬ里の人々は、まさかこのマツの木の精が陸奥の守の娘さんの阿古耶の恋人であるとは思いも寄りませんから、多勢の樵夫どもを集めてとうとう伐り倒しました。そして名取川まで持ち運ぼうとすると、いかなることか挽き車はすこしも動きませんでした。阿古耶はこのことを聞いて、男の最後の言葉と合わせ考えて、急いでそのマツの木の側にいきました。そして木に手を触れて先に立って曳き綱を曳きますと、大磐石のように動こうともみえなかったマツの木も、たやすく動き出し、難なく普請場まで運びゆくことができました。
その後、阿古耶はそのマツの木に操をたてて一生独身で暮らしましたという。