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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

その工場に雇われてから約一年ほど経ったとき、彼のようすに変化があらわれた。なかまは誰も気がつかなかったし、彼も注意ぶかく自制していたが、その自己抑制には、しだいに強い努力を加えなければならなくなった。彼を悩ますのは女たちであった。

勤めだしたはじめのころ、彼女たちは醜悪な軟躰動物のようで、ただ嫌悪感しか与えられなかった。けれども月日が経ち、自分がかれらのなかまに溶け込んでゆくと、彼女たちが「女」であるということを意識するようになり、それが彼の神経の中に深くくいいって来た。彼の眼や耳は、絶えず彼女たちの動静にひきつけられ、彼の嗅覚は彼女たちの躯から発散する匂いにひきつけられた。たぷたぷと揺れる乳房、男のように緊縛している下帯のために、却って際立って見える下腹や、広い腰や、肉のもりあがった豊かな臀部など。すべてが原始的にあからさまで、なんのつくろいもない強烈な刺戟と誘惑をふり撒いていた。

五人いる女たちの中で、彼をもっともひきつけたのは彼女であった。もちろん良人があり、年はいちばん若かったが、肥えていて背丈が低く、躯に比べて頭や手足が不自然なほど小さかった。