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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
私のところへ晩めしを届けるころから、そのいさましい略奪は始まった。
現代のキャバレーとか、暴力酒場などの経験者にとっては、たぶん、まだなまぬるい話としか思われないだろうが、とにかく「澄川」からはすぐに指令がとび、他のごったくやから女たちや器物が動員された。女たちは呼ばれた芸妓というかたちであり、器物とは燗徳利とか盃とか、椀や皿小鉢の類いである。――念のために注を入れると、小料理屋となのっているにもかかわらず、これらの店ではそういう器物があまり揃ってはいない。客の多くは酒かビールの一本くらいに、あとは丼物でも取ればいいほうだからだ。――で、こうして召集された女たちがかもを取り巻き、夜の明けるまで盛大に騒いだ。もちろん騒いだのは女たちで、それは一年に一度あるかなしというチャンスだったからだが、夜半すぎになると客はくたびれはててしまい、坐っていることもできなくなった。
「それでもいさましいの」とおせいちゃんはまた喉で笑った、「まっすぐ坐ってもいられないのに、おかっちゃんを捉まえてあっちへゆこう、あっちへゆこうってせがむのよ」
おかっちゃんは、ふざけちゃいけないよ、と云ったそうである。