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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
倉なあこは訝しそうに友達の顔を見た。男ぶりがよくて、口の重い、いつも頬の赤い彼は、決して人にさからうようなことはないが、富なあこの言葉には少なからず不審をいだいたようであった。
「まさか」と倉なあこが呟いた。
「そう思うだろう、誰でもそう思うんだ」と富なあこが云って立停り、水の中で踵をあげた、「――砂はただ砂っ粒、これだけのもんだと思ってる、だがそうじゃねえ、これはこれで生きてるし、生きてる証拠にはおめえ、絶えまなしに育ってるんだぜ」
倉なあこはなにか反問しかけたが、ちょうど魚を踏んだので、巧みに女串を刺し、六寸ばかりの鰈をあげた。
「砂が」と倉なあこは鰈を魚網へ入れながら訊いた、「育つってかい」
「おうよ」と富なあこが云った、「それもただ育つだけじゃねえ、育って大きくなりながら、だんだん川をのぼるんだ、だんだんにな、おらもこれにはびっくりした」
倉なあこは右手の中指で、頭のうしろを掻いた。
「こんな根戸川なんかじゃよくわからねえが、ほかの川へいってみればはっきりすらあ」と富なあこは続けた、「――海に近えところはこまっけえ砂さ、それが上へのぼるにつれて、砂利になり石ころになり、その石ころがもっと大きくなってるもんだ」