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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
そして雨戸をあけ、格子戸をあけてはいると、そこでまた、――この格子を閉めよう、と云って格子戸を閉める。上り框の障子のあけたてから、洗面、着替え、晩めしの支度、あと片づけ、風呂のゆき帰り、寝るときも起きるときにも、すべてこの問いかけと確認を忘れることはなかった。また、独りで将棋を指すときは、盤の向うに相手がいるかのように、一手一手について感心したり、へこたれたり、大いに自慢の鼻をうごめかすかと思うと、相手の立場になって嘆いたりした。――それはちょうど、似合いの腕を持った仲の良い友人が二人きりで、邪魔をされる心配もなく、ゆっくりと将棋をたのしんでいるようにみえた。
このあいだにおさいは嫁にいった。利根川の河畔にある布佐という町の、かなり大きな料理屋であったが、一年ちょっとで良人に死なれ、生れてまのない女の子があるため、百日ほど辛抱したあと、姑とうまくゆかないので、子供を引取って実家へ帰った。――気性の勝った彼女にとって、子持ちの出戻りというなりゆきは辛いことだったろう。そう考えるのが人情だと思うが、彼女は少しもそんなようすをみせなかった。嫁にゆくまえと同じように、雑貨店のほうでも洋食部のほうでも、活溌に動きまわったし、まえよりもあいそよく、客あしらいもやわらかになった。