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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

というのが訛ったのだと思う。これは私の想像にすぎない、本当の意味はべつにあるのかもしれないが、とにかく、かんぷりはなかまの輿望をになって戦線の右翼にたった、というふうにみえた。

「鮒は十五いんだ」とかんぷりは云った、「幾らで買ってくれっかえ、先生」

私はふところを考えてから答えた。

「えっ」とかんぷりは眼をみはり、きおいこんでバケツの中から鮒をつかみあげ、――それはもっとも大きな一尾であった、――私のほうへと突き出しながら云った、「しょっからへいってみせえま、このくれえの鮒は一つで五ひゃくもすんだぞ、先生」

このちび助のユダヤ人め、と私は心の中で罵った。「しょっから」とは堀南にある佃煮屋で、彼はその店で売っている鮒の甘露煮を引合いに出したのだ。慥かに、そのくらい大きな鮒の甘露煮なら五ひゃく程度は取られるかもしれない。私は頭が熱くなるのを感じた。古笊でしゃくったばかりの鮒と、いろいろ手数をかけ、調味料や燃料を使い、売り物としてきれいに注意ぶかく仕上げられた鮒とを、同一に比べるという法はないだろう。しかしまた、甘露煮にすれば一尾それだけの値になる物を、十五尾まとめて〇三十で買うという根性も、相手を子供とみくびっているようでさもしいとも云える。