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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
釣舟宿「千本」の下座敷で、或る夜この件について、大勢の者がやりあった。船宿では釣客のために、ごろ寝の準備もあるし、簡単な飲み食いもできる。専属の船頭の中には住込みの者もいるので、二階も下も広く部屋がとってあり、下座敷では船頭や漁師や、ときには蒸気乗りなどが集まって、よく賑やかに飲んだり騒いだりした。――その夜も同じような顔ぶれだったろう、「千本」には長男の鉄なあこと、嫁にいったおかず、十七歳で美貌の二女おすみ、小学六年の二男の久、小学三年の長太郎。三女のしづ、あるじは和助といって、船宿経営の手腕は浦粕随一といわれたし、客筋のいいこと、常に繁昌していることも事実であった。
「こりゃあなんだ、その、あれだ」と漁師の一人が云った、「まるで業病かかさ持ちの女を嫁に取るみてえなもんだ、こっちはちっともいいおもいをしねえで、血の腐った子や孫ができる、そんなものはおめえまっぴらだ」
「かさ持ちってなんだ」と脇で聞いていた長が云った。
「寝ちまいな」と和助が投網を繕いながら云った、「鉄もおしづも寝ちまったぞ」
「とけえ(都会?)のやつらがてめえでひり出した物あてめえで始末をするがいいだ」