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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

といわれるくらいの名優だ、いつかみちとせをやったときにはちゃんと屋台で蕎麦を食ってみせたではないか、饅頭でないのに饅頭でまにあわせるような客をなめた芝居をするわけはない。そうだな、とべつの誰かが云った。このまえ国定忠治をやったときにも、――こうして、問題は「田舎団十郎」の良心的な名演技のほうへそれてゆき、みんながその話に熱中した。これは一例にすぎないが、缶詰工場でも、役場の待合所でも、根戸川亭でも、堀南の洋食屋「四丁目」でも、漁師や船頭だけではなく、住民がちょっと四五人も集まれば集まったところで、すぐに浦粕の死活問題が論議された。

こうした気運がしだいにふくれあがって、やがて、町民大会を開催せよ、という声になり、第一回が「梅の湯」でひらかれた。午後六時からというので、私は五時半ころにでかけていった。浴場の広い流し場へうすべりを敷いたのが聴衆席であり、浴槽に蓋をし、その上へさらに板を並べ、古テーブルを置いたのが演壇であった。下足番などはない、各自が自分の履物を持ってあがるのであり、用意のいい人は座蒲団も持って来ていた。――演壇のうしろの羽目板には、「汚物処理場設置反対大演説大会」