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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

私はそのとき、彼の小さな心臓がドラム缶のようにふくれあがり、大太鼓の乱打のような搏動をするのが感じられた。――周囲の観客はこの小さな正義の騎士にすっかり興を唆られ、彼が画面に向ってなにか叫ぶたびに、指さしたり笑ったり、互いに小突きあったりしたが、長はぜんぜん気づかず、肉躰的にも精神的にも、余すところなく映画の中へ溶け込んでいた。

「みんなばかやつらだ」長は猛烈に憤慨して云った、「虎も犀もばかやつらだし、あの毛唐もばかやつらだ、こんなに肝煎ったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」

映画館を出てから、私は彼を洋食屋へ伴れていった。彼の憤慨は少しもしずまらず、そこのトンカツにもカレーライスにもけちをつけ、「浦粕の四丁目(洋食屋)のほうがずっとうめえや」と云った。私は一本のビールを啜りながら、「ザンバ」がいかに演出されたものであるか、ということを概説した。

「あのにしき蛇のところを考えてみろよ」と私は云った、「あの蛇が樹の枝にからまっていたろう、いいか、その向うから探検家が来るだろう、このフォークが探検家とする、な、蛇がこのナイフだ、とするとカメラはこっちにあるこのマッチさ」