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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
増さんが一円紙幣を五枚見せたら、これからすぐにでも伴れていってくれ、と云ったそうである。
「あのおっかあはそれを聞くと肝うつぶしてとびだしちまっただ」と平二郎は云った、「なにしろおめえさん、村一番の乱暴者で鼻っつまみだったからねえ、――みんなはきっと死ぬ気だべえって、えれえ騒ぎをしたもんだよ」
きみのはどこかの警察に捉まって保護され、増さんがいって引取って来た。
二人の結婚生活はごく平凡にすぎていった。結婚してからもきみのは大蝶の工場へかよっていたし、増さんもなんとなく大蝶へ出入りをして、雑役のようなことをしたり、旦那が猟にいくときは供もした。平凡な結婚生活は三年ほど続いた。むろんそのあいだにも、増さんの行状は変らなかった。酒を飲むと暴れるし、誰かと口論をしたり、殴りあいをしたりしない日はなかった。或るとき大蝶の工場のほうの支配人が、おまえのようなやつはもうくびだ、と怒った。増さんは鼻の先で笑った。
「冗談を云いなさんなって、増さんはえへら笑いをしたってえだ」と平二郎は云った、「おらあ好きで大蝶の仕事に来ているんで、雇われてるわけじゃあねえ、雇われてもいねえ者をくびにできるかってよ」