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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

とおどろいておられた。――そのあと、私は浦粕へ帰ってから、世間は狭いものだという通念について、少しばかり検討をこころみたのち、こういうめぐりあいはむしろ「世間が広いからだ」という定義を組み立てることができた。要約すれば平行線の定理なのである。私は私の人生の座標をもち、彦山夫人には夫人の座標がある。留さんも同じことであって、おのおのはその人生の座標に即いて生きている。平行線は相交わらない、というのはユークリッドの定理だったろうか。これに対して「しかし無限大の空間においては相交わる」という非ユークリッド定理がある。つまり、世間が広大であるからこそ、それぞれの座標をもった三人がめぐりあう機会も生れる、というわけである。こんどこの話を書くに当って、平行線の定理を数社の若い記者諸君に訊いてみた。私はもともと数学には興味もなし才能もゼロなので、その定理がユークリッドのものであるかどうかさえ記憶が薄れていたからであるが、若い記者諸君の意見がみなまちまちであり、中には「ユークリッド自身が、非ユークリッド定理をきめた」と主張する新人記者もいて、やはりものは訊いてみるものだ、という感を新たにしたしだいであった。