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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

とまた女にひっかかるの、留さんのほうでそうなるのか、女のほうで嗅ぎつけるのかわからないわ、あたしはもちろん、貯金の帳尻のことなんか云やあしないのに、ちょうどそのくらいになるときまって女ができるんだからふしぎよ」

女といってもみなしょうばいにんあがりであった。ごったくやから足を抜いたとか、むかし亀戸で売れっ子だったとか、飲み屋から追い出された、などというような経歴のもちぬしたちで、しかもおちついて世帯を持つということはなく、留さんの貯金を使いはたすと、自分からさっさと出ていってしまう、ということであった。

幾たびそんなことがあったか私は知らない。私が浦粕へ移ったときは、しきりに貯金に精をだしている期間らしく、酒は高品さんの炉端か、なかまの奢り、タバコは人の吸いがらという、倹約なところをみせていた。それが一年ほど経ってからだと思うが、高品夫人がまたそろそろ始まるじぶんよと云い出した。

「いいえ、まだそんなようすはないのよ」と夫人は私の問いに答えた、「でも貯金が一〇〇を越したの、珍しいことに今日しらべたら一二〇近くになってたのよ、そんなに溜まったのはこれが始めてよ」