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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「そんならその分はおめえが払いな」とお秀は云う、「てめえでまちげえたんだからね、早くいってメンチボールをそいって来な、お、そのコロッケは置いてっていいよ、片づけるだけはおらが片づけてやっから、払いはおめえだよ、いいかえ」
留さんは「ああ」と云って立ってゆく。
「ほんとにまぬけでのろまで」とお秀は舌打ちをする、いかにも癇に障るといったような舌打ちである、「あれでよく通船が飼っとくもんだ、呆れ返って屁も出あしねえよ」
私はその女を憎んだ。
――どういうわけだ、留さん。
そんな女にどうしてこき使われているんだ。横っ面をはりとばすか、蹴倒してやるか、唾でも吐きかけてやればいいじゃないか、男じゃないか留さん、と私は心の中で叫んだ。そのとき私は、怒りのために躯がふるえたのをいまでも覚えている。だが、と私は自分を抑えるために反省した。
――あの女は世間からいためつけられて来たのだ。
どんな事情かはわからないが、若いころから身を売り、色街を転々として、「八兵衛」にまで落ち、ねんがあけるまで身受けをする客もなかった。しかも、ねんがあけて約束した男を頼って来れば、その男にはほかに女があり、彼女の預けた荷物もろとも逃げてしまった。