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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

「おい」と私は彼女に云った、「ひどいめにあったな、これで終ってくれればいいがね」

私の心にあたたかな愛情がわきあがった。そんなにもぶざまな恰好の、愚かしげなべか舟はほかにはない。そのために嘲笑され、憎まれているのだが、それはそんなふうに造った者が悪いので、彼女自身には責任のないことである。彼女はなんの罪もないのに造った者の誤り、または臍曲りの代償を払わされているのだ。しかも彼女はその冤を訴えることさえできず、黙って住民たちに嘲笑され、悪童どもの投げつける石に耐えなければならないのである。

「ひとつ考えてみよう」私は彼女の修理された舳先を撫でながら云った、「問題は(青べか)という概念だ」

青いペンキを剥がしても、「塗っても青べかは青べかだ」と芳爺さんは云った。それは要するに、その舟に関する住民たちの認識の根底をなす普遍的概念であろう。とすれば、それを青べかでない他のもの、つまり属性の転換をすればいいのではないか、と私は思った。

「待てよ」と私は呟いた、「まあ待て、考えてみよう」

私は夕めしを喰べに堀南の「天鉄」へゆき、そのあとちょっと買物をして帰った。