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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

では省略する。――私はタバコをふかしながら、その芦の茂みから鷭の飛び立つのを認めた。鷭という鳥は、私の家でもよく見ることができた。机に向っていると、窓のすぐ向うを飛んでゆくのである、黒地に星点のある羽根や、赤い足などですぐ、それとわかる。野鳥の中でこれほど美味な肉はない、ということを聞いていたので、川獺の場合とは別個の欲望から、その鳥もなんとか捕獲しようとこころみたが、ついに一度も成功しなかったので、一種の怨みからだろうか、かなり遠くからでも、鷭だけはみわけがつくようになった。

「蒸気河岸の先生よ」と云う声がした、「釣れっかえ」

私はおどろいて振り返った。見わたす限り人影もなかったのに、突然そう呼びかけられたので、振り返る拍子にタバコを落し、それがあぐらをかいている膝のあいだに落ちたので、取って捨てるまでに、腿と脛を慌てて叩いたりこすったりしなければならなかった。――そこにいるのは繁あねであった。年は十二か三、たぶん十三歳だったと思うが、私が振り返ると、岸の上からにっと笑いかけて、もういちど同じ質問をした。

私はそれには答えないで、こっちから問いかけた。