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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

鍋の中では鮒の味噌煮がことこと音を立ててい、味噌と川魚との入り混ったうまそうな匂いが、蓋の隙間から漂いながれていた。

蒸気河岸のほうから、土堤の上をこちらへ近づいて来る、賑やかな人声が聞えた。先生はまたペンを取った。人声はもっと近づいて来、それが子供たちだとわかったとき、かれらはうたいだした。

「おーかんけ(大勧化)おーかんけ おいなりさんのおーかんけ」

かれらは先生の家を見おろすところまで来て、土堤の上からうたい続ける。

「おぞーに(雑煮)とおーあげ おあげのだんからおっこって あーかい***ーすりむいた こーやくだい(膏薬代)にくれせーま くれせーま」

先生は机の前で躯を固くしている。土堤の上では子供たちの相談する声が聞える。

「いんだよいんだよ」と云う声がする、「見せえま、電気がついてんべえがね」

かれらはまたなにか相談をし、声をそろえて、まえよりも勇ましく誘惑的にうたいだす。もちろん文句は同じもので、先生は殆んど息をころしている。するとかれらの中から、船宿「千本」の長の呼びかける声がする。

「先生、百でも二百でもいいだよ」

先生は可笑しくなって、というのは、そのとき先生のふところは極めてさみしく、そういう喜捨に応ずることができなかったからで、つまりそれが可笑しかったのであるが、先生は辛抱づよく沈黙を守っ