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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

七

鎌と分銅に対して何よりの戦法は、樹を楯とすることだったが、その樹へ近づく遑がなかった。――また、その樹の陰には、敵がいた。

――すると何処かで、きゃっ、と澄んだ悲鳴がながれた。

「あ。伊織?」

武蔵は、振り向けなかった。肚の底で、葬った。――その間にも、眸の前に、鎌が光り、分銅はおどって跳ぶ。

「くたばれ!」

梅軒の喚きではない。

武蔵がいったのでも勿論ない。――武蔵のうしろで何者かが、こう呶鳴ったのであった。

「武蔵どの、武蔵どの。何でそれしきの敵に、手間どりなさる。――後ろ巻は某が引受けました」

そしてまた、同じ声で、

「くたばれっ、獣」

地ひびき――絶叫――熊笹を蹴荒す跫音――。何者か、先刻から彼方にかけ離れて、武蔵に助太刀していた者が、ようやく、隔てる相手を踏み破って、武蔵のうしろへその働きを移して来たらしいのであった。

七

(――誰か?)

と、疑った。思わざる後ろの味方であった。だが慥かめている遑など元よりない。

武蔵は、背を、安心した。

梅軒へ向って、一方に、心をあつめることができた。

だが、彼の手には、すでに小刀一本しかなかった。大剣は、梅軒の鎖に、噛み奪られていた。