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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

港

一

水溜りを見ると、自分の顔を映して、

(顔はわかる)

と、いくらか心を安めた。

きのうから歩いている。――どう歩いているのか、見当もつかない。

あの断層の底を這い上がってからずっとのことなのだ。

「来いっ」

発作的に、いきなり空へ向って、呶鳴ったり、

「畜生ッ」

と、地を睨んで、その気力が抜けると、肱を曲げて、涙を拭いたりした。

「――おじさアん」

権之助を呼んでみる。

やはりこの世にはもういないのだと思う。謀られて殺されたのだと考える。あの附近に散らばっていた権之助の遺品を見てから、伊織はそう思いこんでしまった。

「……おじさアん。おじさーん」

多感な少年のたましいは、むだと知りながらも、呼ばずにいられなかった。きのうから歩きつづけている足のつかれも知らない。その足にも、耳の辺へも、手にも血がついている。着物が裂けている。しかし、何も顧みようとしない。

「どこだろ?」

ときどき、われに返る時は、胃の腑から空腹を訴えられる時だった。何かは喰べていたが、何を喰べて来たか、よく覚えてないのである。

おとといの晩泊った金剛寺へなり、或は、その前の柳生ノ庄なりを思い出せば、歩む目的もつくわけだが、伊織の頭には、断層以前の記憶は、まだ何もよみがえって来ないらしい。