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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

三

――他へお急ぎの儀もござりましょうが、せめて一夜お泊り下さいますわけには行きますまいか」

「これは――」

と会釈を返して、

「ありがたいお言葉ですが、船島の土になるやも知れぬ身に、一夜二夜の宿縁を、ここかしこに残しては、去る身も、後の人々も、かえって煩わしいと思われますれば」

「ご斟酌が過ぎまする。お帰し申しては、手前どもが、主人より叱言をうけるやも知れませぬ」

「委細、また、書中にいたして、佐渡様まで改めて、申し上げます。――きょうは到着の御挨拶までにうかがったこと。よろしゅうお伝えを」

と、武蔵は門を出た。

三

おういーっ。

と、呼ぶ者がある。

間を措いてまた、誰かが。

おおういっ……

今、長岡佐渡の邸へ、挨拶をすまして、侍小路から伝馬河岸へ出、到津の浜の方へ降りて行った武蔵のうしろ姿へ――その声の主は、手を振っていた。

四、五名の武士。

細川家の藩士とすぐ分る。そして皆、よい年配だ。白髪の老武士も中に見える。

武蔵は気づかない。

黙然と、波打際に立っていた。

陽は、うすずきかけて灰色の漁船の帆が、昼がすみの中に、静止していた。この辺から海上約一里という船島は、すぐ側のそれよりは大きい彦島の陰にかすかに見える。