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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

――すると、何処かで、

「太郎左衛門殿っ、太郎左衛門殿っ」

声は、家の外だった。

庭先の下の干潟へ、細川藩の早舟が一艘、漕ぎ寄せていた。その早舟の上に突っ立っている侍が呼んだのだ。

「おう、縫殿介様で」

縫殿介は、舟から上がらなかった。縁に太郎左衛門の姿が見えたのを幸いに、そこから仰向いて、

「武蔵どのには、もはや、お出ましなされたか」

と、訊ねた。

太郎左衛門が、まだ――と答えると、縫殿介は早口に、

「では、少しも早く、ご用意をととのえて、お出向き下さるよう、お伝え下さい。――すでに相手方の佐々木巌流どのにも、藩公のお舟にて、島へ向われたし、主人長岡佐渡様にも、今し方、小倉を離れましたれば」

「かしこまりました」

「くれぐれも、卑怯の名をおとりなさらぬよう、老婆心までに一言を――」

いい終ると、先を急くように、早舟はすぐ櫓を回して、漕ぎ去った。

――が。太郎左衛門もお鶴も、奥の静かな一間を振り向いたのみで、そのまま、わずかな時間を長い気持で、縁の端にならんで待っていた。

けれど、いつまでも、武蔵のいる部屋の襖は、開こうともしなかった。物音らしい気配も洩れて来なかった。