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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁
次の間では、衣の音がしていた。武蔵が身支度しているものと思われた。襖ごしの声がしなくなったと思うと、武蔵の声は、もう彼方の座敷で、父の太郎左衛門と何か二言三言、話している様子だった。
お鶴は、武蔵が支度していた次の部屋を通った。彼の脱いだ肌着小袖は、彼自身の手で、きちんと畳まれて、隅のみだれ箱に重ねてあった。
いい知れぬ寂しさが、お鶴の胸をつきあげた。お鶴は、まだその人の温みを残している小袖の上に顔を投げ伏せた。
「……お鶴。お鶴」
やがて。
父の呼ぶ声だった。
お鶴は、答える前に、そっと瞼や頬を指の腹で撫でていた。
「……お鶴っ。何をしておる。お立ちになるぞ。はや、お立ちになるぞ」
「はいっ」
われを忘れて、お鶴は駈け出して行った。
――と見れば、武蔵はもう草鞋を穿いて、庭の木戸口まで出ている。彼は、あくまで人目立つのを避けていた。そこから浜づたいに少し歩けば、佐助の小舟が、疾くから待っている筈だった。
店や奥の者、四、五人が、太郎左衛門と共にそこへ出て、木戸口まで見送った。お鶴は、何もいえなかった。ただ武蔵のひとみが、自分のひとみを見た機に、だまって、皆と一緒に、頭を下げた。