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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

風便り

一

万兵衛の親切気にも、途中にも、何の変りはなかった。

そして、今日。

佐用の三日月へ着いたのは、もう山の瀬に陽も舂き、何となく、秋の夕べの身に迫る頃だった。

「万兵衛さま」

疲れたのか、無口に、先へ歩いてゆく連れを、呼びかけて、

「ここはもう三日月ではございませぬか。――あの山を越えればすぐ、讃甘の宮本村」

お通が、後ろで、独り託つと、

「おいのう」

万兵衛も、足を止めて、

「宮本村も、七宝寺も、あの山のすぐ彼方じゃ。懐かしかろうが」

「…………」

お通は、頷かなかった。夕づく空に、黒々と連なっている山の波を、ただ、見まもって。

そこに、いるべき人のいない山河は、あまりに寂しい。あまりにもただ、自然でありすぎる。

「もすこしじゃ。お通さん。草臥れたろうが」

万兵衛は、歩き出す。お通も従いて、

「どういたしまして。貴方さまこそ」

「何さ、わしは始終、商用で通っている道」

「お吟様のいらっしゃる、郷士のお宅とかは?」

「あれに」

と、指さして、

「お吟様も、待っているに違いない。ともあれ、もう一息」

足は早くなる。

やがて、山の瀬に行きあたると、そこ此処に、家があった。

ここは龍野街道の一宿場なので、町というほどの戸数もないが、一膳めし屋、馬子の溜り、安旅籠などの、幾軒かが両側に見える。