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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

片手に持って、眼から腕の線へ水平に通して見る。幾分、水気をふくんでいるので、木の質は重く感じる。櫂の片刃に削げが来て、そこから少し裂けているので、使わずに捨ててあった物らしい。

小刀を抜いて、彼は、それを膝の上で、気に入るまで削り出した。他念のない容子である。

佐助でさえ、心にかかって、幾度も幾度も赤間ヶ関の浜を――平家松のあたりを目じるしに――振り向いたことなのに、この人には、微塵、後ろ髪をひかれる風は見えない。

いったい、試合などへ臨む者は、皆、こういう気持になるものだろうか。佐助の町人から観た考えでは、あまりに冷た過ぎるようにさえ思える。

櫂が削り終えたとみえ、武蔵は袴や袂の木屑を払って、

「佐助」

と、また呼ぶ。

「――なんぞ、着る物はあるまいか、蓑でもよいが」

「お寒いのでございますか」

「いや舷からしぶきがかかる。背中へかけたいのだ」

「てまえの踏んでいる艫板の下に、綿入れが一枚、突っこんでありますが」

「そうか。借りるぞ」

佐助の綿入れを出して、武蔵は背へ羽織った。

まだ船島は、霞んでいた。

武蔵は、懐紙を取り出して、紙縒を作り始めた。幾十本か知れぬほど縒っている。