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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

そう惜しんで、忠明は、

(弟子ならば)

と、その忠言を喉まで出しかけたが、遂に、何もいわなかった。

そして小次郎の言葉には、なんでも、謙虚に笑って答えた。

雑談のうちに、武蔵のうわさなども出た。

――近頃、忠明が聞いたこととして、北条安房守や僧沢庵の推薦で、また新たに、宮本武蔵という無名の一剣士が、抜擢されて師範の席に加わるかも知れない――という話なども、彼が洩らした。

「……ほ?」

小次郎は、そういったきりだったが、心の安からぬ顔いろをした。

西陽を見て、彼が、

「帰る」

と、いい出したので、忠明は、姪のお光にいいつけ、

「お老婆の手をひいて、坂の下までお送りして行け」

と、いった。

恬淡で、真直で、柳生のように、政客との交わりなどもなく、素朴な武士気質の人で通って来た治郎右衛門忠明の姿が、江戸から見えなくなったのは、それから間もなくであった。

(将軍家にも、直々、近づける身なのに――)

(うまく勤め上げれば、いくらでも出世の先があったものを)

と、彼の遁世を怪訝しがった世人は、やがて佐々木小次郎に彼が負けたということを誇大に取って、

(小野治郎右衛門忠明は、発狂したのだそうだ)