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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(七)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 頁

青空文庫

雨を呼ぶことも、風を起すことも自在である。そしてそこに、筆を把った者の心が永遠に画として遺る。心に邪があれば邪が――心に堕気があれば堕気が――匠気があればまた匠気のあとが蔽い隠しようもなく遺る。

人の肉体は消えても墨は消えない。紙に宿した心の象はいつまで呼吸してゆくやら計りがたい。

武蔵は、そんなこともふと思う。

が、そんな考えも、画心の邪げである。白紙のような無の境に自分もなろうとする。そして筆持つ手が、我でもなく、他人でもなく、心が心のまま、白い天地に行動するのを待っているような気持――

「…………」

その姿に、狭い一間は寂としていたのである。

ここには往来の騒音もなければ、きょうの試合もよそ事のようだった。

ただ中庭の坪の女竹が、ときおり、かすかな戦ぎを見せるだけで――。

「……もし」

音もなく、いつか、彼のうしろの襖が少し開いていた。

主の太郎左衛門であった。そっと、そこを窺ったものの、あまりに静かな彼の姿に、呼びかけるのさえ、憚られて、

「……武蔵様。もし……せっかくお楽しみのところを、お邪魔いたして恐れ入りますが」

彼の眼にも、武蔵のそうしている容子は、いかにも画に楽しんでいる姿に見えたのだった。