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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
「おめえたちの方は?」
と伝吉は逆手に出る。
「わっしどもは、どうせ素なしの旅ですから、旅籠銭助けに、歩く心算でごぜえます。とても親分方と、おつき合い申す訳にはめえりません」
「じゃ、俺もぶらぶら歩くとしよう。夏の夜旅というやつも洒落たものだ」
「へ、でも……」
と仁三と久六と、ちょっと厭な目交ぜをしたが、伝吉は涼しい顔で、折から明るみかけた月を後ろに澄まして行く。
すると、とある森蔭の辻堂の縁に、なにかガヤガヤ喚きながら、街道を見ていた五、六人の影――いち早く仁三の姿を見ると、バラバラと駈け寄ってきた。
「おッ仁三兄いじゃねえか。どうしたんだ」
「約束の時刻に来ねえので、どんなに番狂いしたか知れやしねえ。おや久六、なぜ駕を持って来ねえんだ。ちぇッ、どこまでドジに出来てやがる」
と、のッけから、散々に我鳴り立てるので、独鈷の仁三が、しきりにせした効もなかった。
「そっちの来るのが遅いために、船から玉を上げていると、この先の河原で、飛んだ無茶な侍が邪魔に入ってしまったじゃねえか」
「グズグズしていると、また、そいつが、ここへ追ッかけて来るところだ。それにしても、駕の用意をして来ねえなんて頓馬があるものか」