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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

その理由を知らない金井一角は、初めから、手間暇とらずに真っ二つと自信しているが、一、二合火花を散らすうちに、案に相違した相手の太刀風。ともすると受身になる。

「己れ! こんな奴に!」

歯噛みをして、憤怒の形相もの凄く、秘術を尽くして対ったが、こはいかに、新九郎の五体は鉄壁のよう。しかも見ては烈電の如く斬り込んで来るのみか、刻をたつほどいよいよ冴えてくるばかりだ。

「こんな筈はない! こんな筈はない!」

一角は幾度も心のうちで絶叫したが、事実、息もつかせず捲くし立ってくる太刀風をどうしようもなかった。

もう後ろは廊下のどん詰り、前には息さえ乱れぬ新九郎の太刀。ここ、切羽詰まった金井一角は、隙を見て、いきなり屋根の上へ飛び出し、隣り境の塀から彼方側へ躍り越えてしまった。

「待てッ」

つづいて新九郎も、血刀を咥えて跳び降りた。隣も同じような割烹梅茶亭という家で、そこは、池泉、燈籠、築山などの数寄をこらした広い庭だった。

「卑怯な奴、金井一角待て!」

地へ足をつけるが早いか、新九郎は大刀を片手に振りかぶって、一角の影をグルグル追い廻した。庭は広いが、逃げ口に戸惑いした金井一角は、捨て身になって踏み止まった。