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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

四

四

わずか五年前には、山陰無類の腰抜け者と言われた新九郎が、今では武士と侠客両面の浪人伝法となり、その当時、剣名四隣を圧した大月玄蕃なるものが、臆病未練な悲鳴を揚げる――変れば変るものである。

殊に今宵の玄蕃には、折角立身出世の戸端口に来て、下手をやっては詰らない、できるだけ逃げて栄耀をするに如くはなし、という一つの弱気が先に立っていた。

それに、柳原土手で、はしなくも新九郎と白刃を合せた時に、かなり度胆を抜かれているので、それ以来、重蔵と千浪に尾け狙わるるより、新九郎の名に臆していたところだった。おまけに、その時もひどい雨、今夜も小雨、玄蕃にとっては何だかいやな辻占だ。

その気持があったため、玄蕃は散々逃口上を試みたが、その舌先の効目もなく、新九郎が真っ向へ第一刀を振り込んで来たので、なおさら彼は後手になり、危うく身をかわしながら、包光の大刀を横に払って、

「方々、曲者でござる、曲者でござる!」

必死の大声をふり絞って、詰侍の来援を求めた。

しかし、塀の中とは思われぬ程な広さ。御殿の方へも表口へもその声は届きそうにもなかった。

新九郎は平一文字にとって構えた剣尖を、玄蕃の胸板に突きつけて、ツツツツと二、三間追い詰めて行ったが、