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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
五
しかし一念の力に郷士はワッとへたばった。新九郎ものめり込んだ。
「この野郎」
とその隙を後の二人が柄手に唾をくれて、八方から斬りつけようとするところへ、傍らの雑木林の樹蔭で、最前から様子を見ていた一人の六部が、杖に仕込んだ無反の太刀をキラリと引き抜いて駈け寄りざま、電光石火に郷士の一人を梨割りに斬って捨て、あッと愕く次の奴を、返す一刀で、腰車を横に一文字、見事に薙ぎ払った。
五
この瞬間の早技には、新九郎が一太刀の助けさえ入れる隙がなかった。
彼は六部の鮮やかな腕前に感嘆して、足許から逃げ出した残る一人の郷士を追い撃ちに切りつけたが、二度とも切尖が届かず、その間に遠く逸してしまった。
「あいやお武家、一人や半分の鼠賊は追うことはござらぬ」
と、六部は、新九郎の後ろから呼んだ。
「これは思いがけないご助勢下され、忝けのう存じまする」
新九郎は立ち戻って、丁寧に会釈をした。
「幸いに、お怪我もない様子、何よりでござった」
「有難う存じまする。お恥かしい次第でござるが、まったく剣道の心得なき某、貴殿のお助太刀なくば、すでにも危ういところでござった」
「いやいや、最前とくとお見受け申すに、法はずれながら其許の切尖には、云うに云われぬ天質の閃きがあるやに存ずる。