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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
「わッ太助が殺られたッ」
と血に脅えた一同は、意気地もなく蜘蛛の子と逃げ散ったが、新九郎一人は抜き放った一刀を両手で握って、前へ突き出したまま、退く気色を見せなかった。
「やあこの青侍め、剣術を知らねえな」
と郷士の一人は構えを見て充分に見くびりながら、
「なぶり斬りには打ってつけな奴だ」
と真ッ向から斬り下げて来た鋭さ、新九郎はここぞと持った刀でピュッと横に打ッ払った一心の力、グワンと音がしたかと思うと、対手の刀は七、八間も横へすッ飛んで行った。
後の二人は烈火の如く憤った。三尺近い大刀を新九郎の左右から振りかぶって、
「小僧ッ、観念しろ」
とばかり斬りつけた。新九郎にそれを防ぐ秘術はない。――あなやと見る間に、彼は咄嗟にばらばらと駈け抜けて、五、六間向うで、また一刀を前のように持って、こっちへ向き直った。そして、
「いざ来い!」
と、叫んだ。
「こやつ、卑怯な」
と二人は続いて斬りかかった、新九郎も矢車のように、刀を振りまわした。剣道の法則から見れば全然滅茶苦茶ではあるが、彼は必死だ、先に踏み込んで来た一人の刀をハタキ落す。アッと拾いかかるところを、新九郎はここぞ狙いどころと、その背へズーンと斬りつけたが、敵のからだに刀が当ると、背が返って肉は切れなかった。