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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

亡霊

島原城之介の最期など、その一例といってよい。二つの亡霊を見たために――少なくもかれにはそう見えた。かれは自滅をしてしまった。かれが原の城へこもったのは、キリシタンの秘法を盗みたいがためで、そうしてそれを盗んだため、落城前に脱出してしまった。かれほどの悪人ではあったけれど、かれに秘法を伝えてくれた、島原一揆の総大将――もっとも黒幕ではあったけれど、イマニエル司僧が落城と共に、表に立った総大将の天草四郎時貞と共に、焔々たる火中に飛び込んで、殉難したと聞いた時には、さすがに懺悔心を起こしたものである。がそのうちメキメキと、悪業を積むに従って、せっかく起こした懺悔心を、消磨させたのはいうまでもない。しかし苦心して作りあげた、邪教の道場は破壊される、イスラエルのお町には翻弄される。すっかり自信を失うにつれて、また懺悔心というようなものが、心によみがえって来たものである。

そこへ付け込んだのが亡霊であった。

夜は明けたが日が出ない。朝の霧が立ちこめている。そよいでいるのはなんだろう? 崖を蔽うている群ら葉である。群ら葉に抱かれて懸かっている滝! シーンと音なく落ちている。