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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页
三
「どうしたッ、腰が抜けたか!」
「な、何を!」
と新九郎は唇を噛んだ。
「血を見て腰が抜けたのだろう。ここな意気地なしめがッ」
と土足を上げて新九郎の横鬢のあたりをバッと蹴飛ばして来たので、勃然と奮いたった新九郎は、咄嗟に身をかわしてその足をグッと掴んで捻りあげた。
「うぬッ」
と玄蕃は足を取られながら、右手の一刀を斜めにかぶった。その一瞬、新九郎は渾力をこめてドンと彼を突き放したので、さすがの玄蕃もとんとんと二足三足よろけて行った隙に、志摩が落した戒刀を拾い取った新九郎は、ガバとはね起きて振りかざした一念の意気込み鋭く、さっと玄蕃のよろけたところへ斬りつけたが――
「猪口才だッ」
と片手伸ばしにブンと払った玄蕃の強力に、アッと新九郎は中途から持った刀の重みに引かれて横に片膝ついてしまった。技倆の差は争われない。
「口惜しかったら生れかわって来るがいい」
玄蕃は充分な余裕を持って、倒れた新九郎を据物試しに斬り伏せようとした時、
「お待ちよ!」
と鈴音を張った女の声が後ろでした。
三
大月玄蕃はその声に、はッとして小手を緩ませた。玉の声は続いて叱るように、
「お待ちったらさ、そのお方を斬ったら私が諾かないからそう思いな」