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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

五

「左様でござる。ご不審を受けたも尤もでござるが、この新九郎と申す者は拙者の弟でござりますが、性来の小胆者、その上お恥しいが武芸嫌いで太刀持つ術も知りませぬゆえ、かような場合に出会っても兄と共に抜合せもせず、ご覧のとおり蒼ざめて物蔭に隠れていたのでござる。かく武士の恥を曝してお話申した上は、何卒ご疑念をお晴らし下されたい」

「ほほ……そりゃお気の毒な」

と一同は重蔵の言葉に衝たれたように、しばらくは大地に顔を伏せて顫えたままの新九郎に瞠目したが、蝶の化身と云ってもいい美しい姿を見て、ある者はひそかに重蔵の愛童ではないかとさえ疑った様子であった。

五

福知山の領主松平忠房は、三万二千石という、大名の中では微々たる小藩であったが、その家格と、武士的な気魄に富んだ点から、遥かに宮津七万石の城主大名たる京極の内容のない膨大を蔑視していた。

折から、生田馬場の馬術競べでは、見事な優越を示したので、いよいよ赫々たる武名は事実に於いて彼を圧倒した。忠房はそれに大満足を感じた。そしていよいよ家臣の武芸を激励しているところへ、今度にわかに当惑すべき大問題が湧き上がった。