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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

二

太平楽に酒ばかり飲んでいて、この先どうする気でいるのさ。アーアこんなことなら、危ない命の綱渡りまでするんじゃなかったよ。山荘にいて姐御姐御と立てられていた方が、どんなに幸せだったか知れやしない……」

「お延ッ!」

ガチャリと、膳へ盃が落ちてわれる――ともう、小六の脇の下から、急所を狙う蝮の鎌首にも似た太刀の柄頭が、ピタリと向ッていた。

「もう一度云って見ろッ。もう一度、その不貞腐れを小六の前で云って見ろ!」

「云うともね! わたしゃいいますよ」

「云えッ」

とガタガタと、疳にふるえた小脇の鍔鳴り、手もガッシリと柄を握って睨みつける。

「その舌の根を動かして見やがれ、真ッ二つだ。さッ、吠えろ!」

「あーッ、わたしゃ……忘れられない!」

お延はそう云って、しどけなく酔った女の囈言のように、肱つき窓へ俯伏して叫んだ。

二

「新九郎さんのことが忘れられないよ!」

「な、なんだと、気狂いッ」

「ああッ恋しい――新九郎さんがわたしゃ恋しい」

「うぬ!」

まッ黒な嫉妬につつまれた小六は、忿怒に晦んだ力まかせ、可愛さあまったお延の姿へ、きらりと抜き浴びせて行った。

「あれッ――」

壁の隅へ、飛び退いたお延を追って、ぬッと、引っ提げ刀で小六が立上がった時、廊下仕切りの簾の外を、涼やかな浴衣のかげが、チラと通り過ぎたので、彼は慌てて抜刀を背中へ廻し