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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

五

「お召の筋は?」

と早速に云った。

「大月玄蕃を退かせい! 打ち込まれぬうちに早く、早くじゃぞッ」

「はッ」

と答えるとすぐ桟敷から、試合奉行へ勝負引分の伝令が飛んだ。丹後守はいまだ落着かず、更に声を励まして叫んだ。

「霧島六弥」

「はッ――」

一人の小姓が平伏する。

「使者じゃ! 出石藩へ早馬で飛ばせい」

「はッ――」

「仙石左京之亮殿の客分として滞在中の剣客者を、疾くご加勢としてお差向け相願いたいと申し入れるのじゃ。火急の場合口上でよい」

「ははッ」

「時遅れては末世末代当家の恥辱じゃ。早や行け、必死に急げ」

「はッ――」

霧島六弥は御前を退るや、ばらばらと桟敷を駈け降り、繋いであった栗毛の駿足に、ひらりと飛び乗るが早いか朱房の鞭を一当てくれて、ハヨーとばかり出石の仙石家へ指して霞んで行った――その後、太守京極丹後守は、依然と試合の二人へ瞳を放たず凝視ていたが、我を忘れたかのように、思わずアッと褥から膝を辷らせた。

五

ちょうどその時は、気息奄々の乱れを見せた大月玄蕃が、残れる精力をあつめて、エエーッと最後の気合を全身の毛穴から振り絞って、春日重蔵の小太刀を鍔押しに試みた時であった。